多弦楽器の暴奏

心よりいず、願わくば再び心に至らんことを

心よりいず、願わくば再び心に至らんことを

松山のフラメンコギター

今年のお正月にお邪魔したときに発見した、半粗大ゴミと化したフラメンコギターはまだ捨てられずにあった。どう見ても20年以上は弦は張りっぱなしだし、コンディションは悪い。このギターが何故だか気になっていたので、今回は弦やチューニングメーターなど色々と持って来た。

ボディを拭いたり磨いたりするクロスで綺麗にクリーニングしてやる。しかし、汚れが頑固でなかなか綺麗にならない。ケースもなく、まともにメインテナンスしたりしていない様子なので、あちこちガタが来ている。ナットが高いのと、保存状態が悪かったのかブリッジ側の表面板の浮き上がってしまい弦高はかなり高い。糸巻きも緑青がまいていて、錆び付いて硬くてどうしようもない。ボディ表面は見事に日焼けしてしまっているし、ケンカに負けて帰ってきた猫みたいに傷と欠けだらけ。ブリッジは弦高調整のためかなり削った形跡が伺える。このギターを弾いていた誰かが、手を加えたのだろう。根気良く磨いて、現状を隅々までチェックして新しいプロアルテの弦を張ってやった。

何とか調弦して弾いてみると、予想していた以上にフラメンコらしい軽くて明るい音がする。グレード的には高価なものとは思えないが、決して安物のゴミとまでは行かない、そこそこのギターだと思う。「ROSE」とラベルに書かれ1970年製造とも書いてある。(※1.)

どうやらこのギター、若くして亡くなった親父さんのお兄さんの所有していたものらしい。その方はプロのミュージシャンの端くれだったようで、夢を追い求め波乱に富んだ短い一生だっだと訊いた。そんな形見のギターだったようだ。

それから長い年月の間、主を失ったまま暗い物置に置かれたままだったはずのこのギターに命を吹き込むべく、今回奇麗にし新しい弦を張ってよかったと思った。タランタを弾いたり、練習中のたどたどしいファルーカを弾いたりして思いを巡らせた。

当時はどんな音楽がこの楽器から奏でられたのだろうか。どんな思いを、願いを込められたのだろうか。




その日、奥道後の温泉に車で連れて行ってもらう道中、先祖の墓の近くを通ったので一緒にお参りさせてもらった。その方の遺骨も一緒に納められているという事なので手を合わせて、ギターが奇麗になった事を報告しておいた。

親父さんが「温泉に行くついでに墓参りを・・・なんていうたらバチがあたるけんな。
ほじゃけん、墓参りのついでに風呂は入ろうかぁ。」なんて冗談いっていた。


※1.)大阪に帰ってからネットで調べたがあまり情報が得られなかった。正式には「KENT ROSE」というブランドだ、というくらいしか解らない。