多弦楽器の暴奏

心よりいず、願わくば再び心に至らんことを

心よりいず、願わくば再び心に至らんことを

猛禽類とカラス


昨日、性懲りもなく休日出勤の仕事を早めに終えて、前日から行こうと考えていた人口の干潟に足を運びました。

Google衛星写真を見るとその三日月の形をした干潟に一度行ってみたいなと思っていました。もし水鳥が繁殖していたら双眼鏡で観察してみたい。そんな動機で行ってみることにしました。

訪れると、海からの冷たい風が吹きすさび、装備がまたもや不十分でした。先週の教訓が生かされていない。もうワンランク上の暖かい格好が良かったのかもしれません。防寒ブーツも履いてくればよかったな。そんなことを思いながら到着です。大好物のシギ類がいればいいのですが・・・。


訪れてまず気がついたのがミサゴが羽を休めているのが見えました。初めてみました。大型の猛禽類で水中の大きな魚などの獲物を鋭い両足の爪で捕獲する。図鑑にはそう書かれていました。かなり遠くにいたのでこの写真が精一杯。

拡大してみると鋭い爪で何か獲物を捉えていて、くちばしで引きちぎるように食餌しているようです。



次に遭遇したのはどんよりとした空を滑空、旋回するトビです。何羽もいるようで数匹が大きな弧を描きながら螺旋状に旋回しながらフェンスや照明灯に舞い降りてきました。しばらく観察しながら撮影です。


しばらく留まっていると何故かカラスがトビに近づいてくる。何匹もやってくるときもある。そしてトビ相手にカラスが必ず突っついたり、必要以上に近くに接近したりしてちょっかいを出してくるのです。その徹底ぶりと憎らしい手口はなかなかの狡猾さがうかがえます。


トビの方は疎ましそうに睨みを効かせて短くくちばしを開けて威嚇しますが、カラスの嫌がらせは執拗に続くのです。そしてとうとう嫌気が差して飛び立つトビ。


そんな風に対岸の人口干潟とこちらのフェンスや波消しの岩場との間を何度も行ったり来たり、飛び立っては舞い降りる。その繰り返しが続きます。時折上空で、空中戦のような戦闘状態で追いかけ回したり緊張が走ります。

そういえば実家の田舎の里山でも同じ光景が度々見られます。


完全に二羽の間に割って入るカラス。もう、少し可笑しくなってくるぐらい「うざい感じ」が伝わってきます。


撮影した写真を見ていると風切羽も尾羽も傷つき抜け落ちているところがあります。カラスの仕業かもしれません。

ネット情報ですがカラスが猛禽類に近づいてきて尾羽を抜いてしまうということがあるようです。何故そこまでするのか。


悪ふざけなのでしょうか。じゃれているのか。いえ、悪意に満ち溢れている、と言っても過言ではない。体格が一回りも大きく、生態系の頂点たる猛禽類に対して、いったい何を目論んでいちいち挑発的な干渉したがるのか聞いてみたいものです。


縄張り意識や餌の確保のためかもしれません。しかしそれでは同じ場所にいるアオサギに対しても同じ態度をとるというのが自然でしょうが、それはない。アオサギには無関心ということはやはり食べる餌の種類が関係しているのかもしれません。


先程の図鑑によると、トビは「動く獲物を狩るのは不得意で滑空を楽しむだけとも見える。」と興味深い記述があります。また、「水際の漂流物を探す。」ともあります。要するにカラスと同じ雑食性のようです。

水中を泳ぐ小魚を獲物とするサギ類とカラスとは争いが起きない。あるいは、雑食性という共通項があるため餌や餌場巡って互いに競合する関係にあるということなのかもしれません。

先にも述べましたが、この海辺だけではなく山間部でも同じ事が起きているということは、食性だけでなく生活や活動の範囲や適応する環境条件も互いに重なり合っていると考えられます。


トビに限らず猛禽類を追いかけ回すカラスの話はよく聞く話です。実際に自分も幼少期から日常的に見る光景でした。

日本画家で日本鳥類保護連盟の研究所の所長も努めておられる上村淳之氏の著書によると、日本では昔「ズク引き」という方法で小鳥を捕まえていたことが書かれていて大変興味深かった。

「ズク」というのはフクロウのことで、昼に目の見えないフクロウの脚に紐をくくりつけておくと、小鳥が今までの敵討ちをするかのようにたくさん集まってフクロウに対して攻撃を始めるという。そうやっておびき寄せた後に、先端に取り餅をつけた棒を使って小鳥を捕獲するそうです。

猛禽類とそれ以外の鳥類の関係性のその間には、なにか本能的な習性ものが存在するように思えます。

我々の祖先の霊長類が樹上生活していた頃、唯一の被食者だったのがヘビだったといわれています。ちょうど人間が細長いものをヘビと認識し、反射的に回避行動をとるように、生まれ落ちてから経験により獲得したりものではない、遺伝子に刻み込まれた記憶の断片があるように思えるのです。

観察して色々自分なりに考えるのは楽しいものです。





【参考文献】
日本の野鳥/久保田修著(学研教育出版
鳥たちに魅せられて/上村淳史著(中央公論美術出版