多弦楽器の暴奏

心よりいず、願わくば再び心に至らんことを

心よりいず、願わくば再び心に至らんことを

群れをなす黒い影

いつものように大和川の堤防沿いの道を走ります。この辺りには多くの水鳥たちが沢山います。上空を見上げると数十匹のユリカモメが円を描くように旋回し、河岸では鷺がゆっくり歩いて獲物を追っていたり、春の渡りを控えたカモの仲間達ががプカプカ浮いていたりするのが見えます。もう海はすぐそこ、という河口付近なので流れはゆっくりで、河の水もきれいに澄み透明度は高く河底が見えます。

いつもはそんな河口の遠景を見ながら仕事に向かうのですが、今日はたまたまクロスバイクを少し立ち止まり、普段見ることのない堤防越しに見る河のたもとを覗き込んでみました。すると、どうしたことでしょうか、一瞬何かわからなかったのですが、よく見るとかなり広範囲で真っ黒に染まったように見えます。何事かと目を凝らします。大型の魚の群が大きな影となって揺らいでいるのです。新しく買ったカメラを持ち歩いて正解でした。こんな光景に偶然出会うとは。


魚の群れのようです。河に流れ込む水門から放出される水が温かいのか、餌になるようなものがあるのでしょうか、その近辺に見渡すかぎり密度の高い状態で、あまり動かずただじっとして揺らいでいるようです。ちょっと、生命の息吹が感じすぎて怖い。水族館とかではなく、こんな大群を自然の中で肉眼で見たことが無いもので。


鯉か思ったのですが、多分ボラでしょうか。左下に一匹の鯉がいますので姿が違うのがわかります。


レタッチで鮮明化するとはっきり確認できます。

日本一汚い川とまで称されたほど、数十年前は工業排水や生活排水の垂れ流しで深刻な水質の汚濁があったそうです。私は当時のことは知りませんが、想像を絶する程のものだったようです。

そして、いまではどうでしょうか。野鳥が羽を休め、春には野草の花が咲きほころび、夏には蟹や昆虫が多く見られ、秋の夜の虫達の大合唱は都会生活を忘れさせてくれるほどです。冬には沢山の渡り鳥が飛来しこの河は賑わいます。

自治体の一般家庭の下水道の整備やゴミ投棄の住民への意識づけなどの取り組み。あるいは、企業の実施した環境負荷への配慮、そして私たちの環境に対する意識の変化。そういったものが功を奏し、数十年という大変長い時間を必要としましたが、またこうやって再び自然が戻ってきたのです。

毎年のことなのですが先月ぐらいからでしょうか、仕事帰りの夜の時間帯に河の堤防越しの岸辺に自動車が入り、いくつものライト点いて何か作業をされている方々を多く見られます。おそらく、鰻の稚魚を採っているようなのです。もちろん、許可を取得された方々が漁をされているようなのですが、こんなところにさえも、私たちが食卓で口にする魚の漁が行われているのです。

毎日ここを自転車で走り、このブログを通じてこの河の自然を紹介してきました。私自身も何度もこの近辺で狸に遭遇しましたし、トビなどの猛禽類も見たことがあります。最近は鮎の遡上も確認されているそうです。もはや、大和川は日本で最も高い水質改善率を有する河川なのだそうです。私たちが思っている以上に、自然はたくましく、その力を再生していくのがわかります。しかし、それは私たち自身が再び求めなければ、決してありえなかった光景なのでしょう。

確実に自然へと更に再生していくことでしょう、この河は。何事においても、視点を変えることや意識が変わることで、ここまでの成果に繋がるのかと思うと、我々は今抱える様々な問題に対して、きっと立ち向かえるのではないでしょうか。