多弦楽器の暴奏

心よりいず、願わくば再び心に至らんことを

心よりいず、願わくば再び心に至らんことを

One Summer Night

今から18年ぐらい前に池田市まで毎日2時間近くかけて通った事がある。以前勤めていた設計事務所から出向というか派遣というかそういった契約で自動車メーカーのエンジン部の設計の仕事だった。約三年勤めて仕事の内容は興味あるものだったのでいいのだが、通勤が苦痛で仕方がなかった。

当時はCDを店頭で買う→カセットテープにダビング→電車内でカセットウォークマン。というのが一般的な通勤時の音楽を楽しむスタイルだった。MDはもう少し後だったと記憶している。今はネットでCDを注文、あるいはダウンロード→iTunesで管理→iPodが主流かと思われる。

その時にいつも鞄に入れていたカセットは、スーパーギタートリオのライブ盤とスタジオ盤、マクラフリンのベロ・ホリゾンテとシャクティ。そしてパコのシロッコと、このOne Summer Nightを良く聴いていた。どれも素晴らしいアルバムだと思うがOne Summer・・・は、ついついボリュームが大きくなってしまうぐらい大好きで最後のブレリアスでは何回も深く入り込んで声が出てしまいそうで、感動が押さえられない。後日、パコのセクステットが来日して実際に目の当たりにして、すっかり大ファンになった。

最近、このCDをネットで見付けて懐かしかったので注文した。早速、携帯電話の音楽再生機能を利用して電車内で聴いている。当時は友人にダビングしてもらったカセットしかなかったので、もう何年も聴く事が出来なかったのだ。

アナログテープからデジタルデータになって音質が向上して操作性も良くなり快適な通勤時の音楽鑑賞が楽しめるはずだが、もうそこには以前のきらめいた音は聞き取れない。5年前に突発性難聴が発症し左耳の聴力が酷く低下し、耳鳴りが頭の中に鳴り響いて音を聞き分ける事が困難になってしまったのだ。僕にとってとても悲しい事だった。発症当時、少し悲観的になってしまった次期もあったが、不便さはあるにせよ普通に生活は出来る。

でも、イヤホンで音楽を聴くとがっかりするぐらい音が悪い。リバーブの空間の端の方のチリチリ感が奇麗ではないし、低音部分は右に大きくパンニングされて聴こえる。センター部分が一つの固まりの様に聴こえて音の分離性も悪い。困った耳になったものだ。最悪なのが段々聴力の低下が進行しているようだ。一般的な会話での聞き取りも少し困難になって来て、自分自身の滑舌も悪くなっているようだ。

現実を現実として正面から受け止め、かつて美しく聴こえた音の記憶を重ねながらこのアルバムを楽しんでいる。