多弦楽器の暴奏

心よりいず、願わくば再び心に至らんことを

心よりいず、願わくば再び心に至らんことを

チンチン電車で工場萌え

僕には常日頃からやってみたいと思う「くだらない」ことが沢山ある。毎日目にする阪堺線。そうチンチン電車だ。乗った記憶といえば、帝塚山音楽祭を観に行くときに数回乗ったきりだ。その阪堺線を終点まで乗ってみたかった。昭和の風情を色濃く残した路面電車の終着駅。そこにはどんな光景があるのだろう。ずっと、そう思っていた。

今日は祝日だが出勤日。昼休み時間にネットで(これも)前から気になっていた堺臨海工業地帯のコンビナートの事を調べていた。最寄り駅が南海本線浜寺公園駅という事で、その内に行こうとぼんやりGoogle Mapを眺め位置関係をインプットした。そこで「阪堺線浜寺駅前」の文字を見つけ、チンチン電車でかなりコンビナートに近づける事に気付く。急に何とも言えぬささやかな冒険心がどよめきたち、バッグにはミニ三脚とGR-Digitalがある。決めた行くぞ。

天王寺で途中下車して、阪堺線に飛び乗った。

休日のせいなのか、いつもこんなものなのかは判らないが車内は混み合う事も無く余裕で座る事が出来た。我孫子道で乗り換え所要時間約45分、運賃は290円だ。最初のうちは人はそれなりに乗っていたが、残りの数駅では僕しか乗客はいない。

終点で降りて、浜寺公園がすぐにあり、これを突っ切れば海に出るのはすぐにわかった。公園の西端に付くと、遠くにぼんやり浮かぶ無機質なコンビナートが水面に反射する光景が広がる。高速道路の点列のオレンジ色の灯りが何処までも続く光景は僕の深層風景そのものだった。暫くそこにたたずんで、その景色を眺めた。赤いランプが呼吸しているかのように点滅し、赤白の巨大な煙突からは溜め息のような白い煙が流れて行く。まるで生き物のような息使いだ。

ここまで来ると、やはり対岸のコンビナートを間近で見たくなる。相当な距離を徒歩で進み、あのコンビナートに近づこうと浜寺大橋を渡るのだが、交通量の多い車道が邪魔をして、ちっとも近づけない。ろくに下調べもせず、行き当たりばったりなのでいつもこの有様。途方に暮れ、残された時間も近づき歩き疲れ果てたので、来た道を戻り再びチンチン電車に乗った。

帰りのチンチン電車は暫くの間、僕一人しか乗っていない状態だった。運転席の後ろの座席に腰を下ろし、流れ行く線路を眺めながら「電車ヲタク」とか「工場萌え」等の趣味に、シンパシーを感じる魅力の存在を認識した。