多弦楽器の暴奏

心よりいず、願わくば再び心に至らんことを

心よりいず、願わくば再び心に至らんことを

爪の手入れ

爪が伸びて来たので手入れをする。

爪切りで長さを整え、先が若干尖る様に両端を切り捨てる。切り過ぎるとボリュームが出ないし、長過ぎても引っかかる感じがするし、割れ易くなる。ちょうどいい音が鳴る長さを探るのは難しい。

長さと形が整ったら、ヤスリで角を取っていく。僕はチェコ製のガラスの爪ヤスリを愛用している。削り過ぎる事なくまろやかに形を整えるのにちょうどいいのだ。見た目も奇麗で格好のいいヤスリだと思う。それが終わると無印で売っている仕上げ用のスポンジのようなヤスリでイヤミのない程度の光沢を与える。保湿成分のクリームのようなものが染込ませてあるようでつるつるになる。面倒だが、こうやって爪の手入れをしてギターに望む行為そのものが好きだ。

13歳でギターを初めて27年間ずっとギターはフラットピックで弾いて来た。40歳という節目を迎えて、新たな気持ちでギターと向き合おうとした時、今まであこがれだったフィンガーピッキングに挑戦する事にした。今更もう無理とか、そんな事は不思議と思わなかった。左手は出来上がっている。ハイポジションでの4、5フレットまたぐバレーコードも何ともない。問題は右手の動きだった。30年近くフラットピックばかり使っていた僕にとって、これは難しい。いい音がまず出ないし、アルペジオの指使いもでたらめだし、速いパッセージのフレーズは至難の業である。だからこそ自分が何処まで出来るか試してみたくなったのだ。苦手を克服し、あこがれを手に入れる。

家族が寝静まったリビングでお酒を飲みながら、右手の爪の仕上がりを眺める。そして、p-i-a-m-i p-i-a-m-iのトレモロの指使いを確認する。ほろ酔い気分でタイスの瞑想曲をつま弾く。この曲も、もう少しで終わりだ。