多弦楽器の暴奏

心よりいず、願わくば再び心に至らんことを

心よりいず、願わくば再び心に至らんことを

デパートの回転木馬

近鉄百貨店阿部野店が創業70周年の今年、現在のターミナルビルを建て替えて地上300m・59階建ての日本最大級のビルを建設すると発表した。近鉄南側のHoop2の工事も着々と進み、阿倍野再開発も含むこの界隈の景観が一気に変わろうとしている。

近鉄阿部野店は僕、いや僕の家族にとっても身近な存在だっただけに、なんとも寂しげで色んな思い出もある。家族全員の洋服や子供のおもちゃを買う機会が多かったし、地下の生鮮食品は旨いものが安く売り出されていた。価格や鮮度、バラエティの豊富や売り場の活気はこの界隈のスーパーでは太刀打ち出来ない程だった。ショッピングして子供を遊具に乗せて、屋上のガーデニングを施した園芸売り場で一息ついて、レストランフロアで夕食。ありきたりの幼い子供を持つ家族の典型とも言える、デパートで過ごす一日。結構心和んで好きな一時だった。

見渡す限り田や畑しかない田舎の、決して裕福とは言いがたい農家に生まれた僕にとって、当時のテレビに映し出される都会の家族風景に必ず出てくるデパートという存在が、自分にはあまりにも手に届かない遠くのものに思えていたものだ。

歩くのが疲れた上の子をなだめながら下の子をバギーに乗せ、泣き出せばおっぱい休憩を挟みながら買物を済ます。そして必ずこのトレビの広場で上の子を乗り物に乗せた。メリーゴーランドや飛行機や車の乗り物。そんな子供達の記憶を乗せた遊具が姿を消すのかと思うと何だか寂しい。

先日、家族で久しぶりにそんな一日を過ごした。何年かぶりにトレビの広場に子供を連れてきたが、喜ぶのは幼稚園年長の下の娘だけ。上のは「何か乗る?」と訊いてもあまりその気は無いようだ。下の娘だけ車の遊具に乗せるが、「面白かった?」と訊いてもあまりいい返事が返ってこない。自分が期待したより面白くなかったか、前程楽しめなかったか。小学3年の上の娘は積極的にもう一度乗ろうという気は全くない。まあ仕方ない。まだまだ小さいが、これが成長したという事のようだ。色あせないように記憶を求めても段々薄らいで行き、同じ光景はもう二度と見られない。でも、どんなに時が流れても、メリーゴーランドで回り続ける、あのあどけない子供達の笑顔は決して忘れないだろう。

何時取壊されるか知らないが、そんな光景を写真に収める事にした。そこから見える最後の阿部野再開発地域も見渡せたので記録しておいた。