多弦楽器の暴奏

心よりいず、願わくば再び心に至らんことを

心よりいず、願わくば再び心に至らんことを

古時計。

古い腕時計を持っている。

ROLEX DATEJUST 1601。 シリアルナンバーが「1969XXX」なので恐らく1966年製造という事になる。もう、40年以上昔のものだ。それを20年ぐらい前に手に入れて、とても気に入ってずっと可愛がっている。

今売っているものに比べて、基本的なデザインは同じなのだが(これがある意味凄い事)、少々趣が異なりより深い愛着が涌く。キャリパーはハック機能とカレンダー早送り機能が付いていないし(しかし100年動くとされている名機)、バックルの形状が「デベソ」といわれるタイプのものだ。オリジナルの巻き込みブレスはさすがにへたって、伸びが酷くなったので駒タイプのジュビリーブレスに交換した。もっとも現行品との違いでもある「プラ風防」がかなりお気に入りの要因のひとつでもある。

現行品はサファイヤで出来ているので、丈夫で全く傷が付かない。しかしプラスチックはすぐに小傷が付いたり、割れや欠けが出来やすい。そりゃパーツ代が10倍ぐらい違うのだから、当たり前かもしれないが。でもいい所も沢山ある。

まず、私見だが意外と衝撃による割れ強い気がする。何度もキャビネットの角やドアノブなどで強く風防を当てたが、欠ける事はあっても割れない。意外とアクリルとかの樹脂って強いのかもしれない。機動隊の盾だってポリカーボネートだし。

次に傷が付いても自分で消せるのがいい。「サンエーパール」という研磨剤があって、これが面白いぐらい小傷が取れて濡れたような光沢が出る。指にサンエーパールを付けて風防の上を円を描くようにひたすら磨いていく。それを鹿の皮で拭き取り除くと忘れかけていた光が現れる。この瞬間がたまらない。サファイヤはまず家では磨けないだろうからこの感覚は味わえないだろう。

最後に何といってもプラ風防は色気がある。映り込みがほとんど無いせいで文字盤がくっきり見える。そしてバーインデックスの縁側は屈折して歪んで見えて風防のコーナーR部の陰が出来て、何かしら謎めいた感じになる。透明なプラスチックカプセルに閉じ込められたゼンマイ仕掛けのロービートの秒針の動きを眺めていると、時間に追われハイテクデジタルと付き合っている自分が少しだけ忘れられる。これが同じ一分間とは思えないと感じるときが良くある。

巷では電波時計とかいって、100万年に1秒の誤差という驚異的な高精度を誇り、駆動はソーラーでおまけにメインテナンスはほとんど必要としない時計があるがあまり興味を感じない。それを開発した日本の技術は素晴らしいが、そこにあるのは単なる「現在時刻」という正確で無機質な情報(データ)だけのような気がする。ゼンマイと歯車で出来た機械仕掛けの「からくり」的な面白さが全くない。自分では出来ないが精度を追いつめたりオーバーホールする「機械のメインテナンス」をしながら可愛がるのが好きだから。

最新鋭のピカピカの腕時計も素敵だが、いいもの買ってこまめに手入れして大切に使っていると結果長持ちするものだ。100年動く事を前提にそれを開発設計し、 40年経って古く感じないどころか今だに同じデザインが愛されている。先人達の優れた先見の明の素晴らしさに敬服せざるを得ない。