多弦楽器の暴奏

心よりいず、願わくば再び心に至らんことを

心よりいず、願わくば再び心に至らんことを

メトロポリタン美術館展

メトロポリタン美術館

 

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メトロポリタン美術館展、開催時はまだ秋でした。

家からそう遠くない、散歩がてらに出かけられる範囲内に美術館があるというのは喜ばしいことです。家から近いという好条件にありながら、だからこそいつでも行けると思ってしまい、気がつけば開催期間は翌日まで。

 

昨年の秋から開催されている「メトロポリタン美術館展/西洋絵画の500年」を見るため大阪市立美術館に足を運びました。コロナ禍の影響で当日券のチケット購入時の混雑を避けるための入館の制限がかかり、美術館の前は列ができています。少しずつ時間を置いて前に進んでは行きますが、それでも館内に入るまで30分ほどかかりました。

 

中に入ってしまうとそれほど混雑した印象はありませんが、期間が明日までということもあるのでしょうか、人気の作品のところでは絵の前までは辿り着くまでは、人だかりはゆっくりとしか動きません。

 

ニューヨーク、マンハッタンの中のセントラルパークにある世界で最も大きい美術館。1864年にパリでアメリカ独立記念日に集まったアメリカ人が設立を提案。しかしこの時点でコレクションは一点の絵画すら所有しなかったといいます。それから基金による購入やコレクターからの寄贈で収蔵品は増えていきます。現在では300万展の美術品を所蔵するに至るそうです。

 

数百年前に描かれた作品を前にして、作者は今私がみている距離感で同じようにこの絵と向き合ったのかと思うと、急に緊張感が湧いてきて身の引き締まる思いを受けました。この位置から絵筆を持った手がキャンパスまで届いて、時間をかけて絵の具をのせていったんだなあと思うのです。

 

カラヴァッジョもフェルメールも良かったですが、今回の一番のお目当ての作品、ラ・トゥールの「女占い師」。金貨を持った老婆の話を聞いている若い男がいます。男が話に夢中になっているその隙を見て、三人の娘たちが男の身につけている貴金属を奪おうとしている。描かれた人々の視線が交錯し、盗む側が悟られないようにと男の顔色を伺う緊迫した表情と、その場の空気や手の動きが見えるかのようです。それでいて服装や肌の色使いがクリーミーで明るく華やか。どのぐらいその絵の前で行ったり来たりしたでしょうか。隅々まで見て頭に焼き付けます。とても面白い絵です。

 

ゆっくり時間をかけて見てまわり、もう一つの美術館のお楽しみはというとグッズ販売です。「女占い師」の大判ハガキサイズのカードが手頃な値段で売っていて迷わず購入。また、そのサイズにぴったりの額もあったのであわせて買うことにしました。

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今回の戦利品「女占い師/ラ・トゥーユ」

アートというものは、この世の中に存在しなくても私たちは何ら生命活動に反する事なく生きていくことができるのかも知れません。しかし、作品との出会いに感動したり、新しい自分の視点を発見したり、より豊かな人間性を育んだり、何かを考えるきっかけになったりする。作品から発せられる私たちの心に深く届くメッセージを、ゆっくりと読み解いていくことが私の中のかけがえのない時間の過ごし方です。

 

若い頃は音楽家を目指していました。苦労の果て、幸い夢は叶いましたが、そう長くは続きませんでした。すっかり作曲や演奏活動もしなくなり、耳も悪くなる一方で自分を奮い立たせる力も尽き果てしまいました。機械設計士として仕事に従事し家族を養い、もうすぐ子育ても終わろうとしています。

 

美術館を後にしてふと、もう少しわがままに自分だけのために生きて行ってもいいのではないか、と道すがら思うのです。では、何をするのかというと答えが出ない。しかし、まだ私は感動するという力は残っているのだと感じさせられた。中年になっても、若い時と同じように悩んだり、答えを求めては彷徨ったり。あの作品を残した画家たちはどんな思いの生涯だったんだろうと思いを馳せます。

 

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夜に見上げる(1)

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夜に見上げる(2)

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夜に見上げる(3)